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第1部 特集 新時代に求められる強靱・健全なデータ流通社会の実現に向けて
コラム 自由で開かれたインターネットの維持・推進

コラムCOLUMN 1
自由で開かれたインターネットの維持・推進

米国のARPANET計画1による大学と研究所間の通信ネットワークを起源とするインターネットは、1990年代に商用利用が開始され、パーソナルコンピューターの普及やブロードバンド網の整備と相まって世界的な広がりが実現した。「自律・分散・協調」という基本理念に則って、誰もがアクセスできる自由で開かれた空間として発展を遂げたインターネット上では、あらゆる人々が知識や情報を共有し、多様なステークホルダーにより様々なデジタルサービスやビジネスが創出されており、インターネットは我々の社会経済活動を支える基盤となっている。

自由で開かれたインターネットを支えるガバナンスの枠組として、ドメイン名やIPアドレス等の資源管理・調整の観点ではICANN(The Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)が、インターネット関連技術の標準化等技術面ではIETF(The Internet Engineering Task Force)が大きな役割を果たしてきた。ICANNとIETFは、政府は意思決定の当事者の一人にすぎず、研究者、企業、技術者、市民社会等マルチステークホルダーでの民主的な意思決定を原則としている。また、国際連合主催の世界情報社会サミット(WSIS:World Summit for Information Society)の合意文書を受けて、2006年にIGF(Internet Governance Forum)が設立された。IGFでも、幅広い参加者が課題解決に向けた知恵を出し合うという考え方に基づき、産官学民等様々な主体が議論に参加する「マルチステークホルダーアプローチ」を採られている2

このような、自由で開かれたインターネットを脅かすものとして、スプリンターネットの動きが顕在化している。スプリンターネットとは、「Splinter(分裂、断片)」と「Internet」を結びつけた造語であり、政府の規制・介入や技術的な要因、ビジネス活動の影響3によってインターネットが断片化されていくような事態を示す。国際NPO法人Access Nowの報告書によると、2022年には、35カ国で少なくとも187回のインターネットの遮断が発生しており、いずれも前年より増加している(図表1)。

図表1 世界におけるインターネットの遮断
(出典)「WEAPONS OF CONTROL, SHIELDS OF IMPUNIT」4を基に作成」

政府の規制・介入による分断としては、中国やロシアが主張する「サイバー主権5」に基づく国家によるインターネットの統制・管理が挙げられる。

中国は、1990年代から、国家戦略「金字工程」の下インターネットの検閲・分断を進めてきた。他国の情報の影響から自国の利益を守るため、「Great Firewall(金盾)」と呼ばれるインターネット検閲システムを作り上げ、中国国内ではGoogle、Facebook、YouTube等は閲覧不可となっている。なお、Freedom House が2022年に実施した調査では、中国は、対象の65カ国のうち最もインターネットにおける自由がない国となっている。

また、近年、中国は、国連の専門機関である国際電気通信連合(ITU)をインターネット管理組織として位置付けることを提案し、ITUでの影響力強化に乗り出している。政府間機関であるITUでは一国一票制が基本であり、民間組織がITUの決定に関与することは想定されない。インターネットガバナンスに関する議論をITUに集約するという中国の主張は、インターネットの管理を国家が主導し、国際的な取り決めについても途上国を含む一国一票制で運営することにより自国の意見をより強く反映させることを狙いとしていると考えられる6

2019年9月には、中国の華為技術(ファーウェイ)が、工業情報化部(政府機関)及び中国の国営通信会社2社とともに、現在のインターネットプロトコル(IP:Internet Protocol)のクオリティ(ベストエフォート型)では、今後の最先端技術の導入に対応できないとして、新たなインターネットの基本技術となる「New IP」技術をITUに提案した。この提案に対し、欧米諸国やIETFは、New IPは既存のIPとの互換性がなく、相互接続性が損なわれるとして強硬に反対し、2020年12月、ITUではNew IPについてこれ以上の議論は行わないとの結論に至った。

さらに、ロシアでも政府によるインターネットへの規制・介入の動きが見られ、2019年11月、有事の際などに外国とのインターネット通信を遮断・制限する連邦法(通称「主権インターネット法」)が発効している。同法は、通信事業者に、インターネット通信トラヒック(送受信情報)への脅威に対抗したり、禁止されたウェブサイトへのアクセスを制限したりする技術手段をネットワーク上に設置することを義務付け、ロシアのインターネットが脅威にさらされた際には連邦通信・IT・マスコミ監督局が通信網を集中管理することも規定された。

このような中国・ロシアによる「サイバー主権」を巡る動きに加えて、昨今の複雑化する国際情勢が新たな分断の動きを生んでいる。具体的には、2022年2月にロシアがウクライナへの侵攻を開始した4日後、ウクライナ政府は、ロシアのドメインである.ru等の失効やロシア国内のDNSルートサーバーの停止等をICANNに対して要請した。前述のとおり、インターネットは世界中の人がアクセスできるという不文律の下で利用されているグローバル・プラットフォームであり、このウクライナ政府からの要請は、インターネットの根幹を揺るがすものとして各国の注目を集めた。これに対し、ICANNは、「一方的にドメインの接続を解除することはICANNのポリシーに規定されていない」として、ウクライナ政府の要請を受け入れなかった。なお、ウクライナ侵攻の関係では、政府だけでなく企業側にも動きが見られ、2022年3月に米国の大手通信事業者2社がロシアのネットワークとの接続遮断に踏み切っている7

これまで、インターネットは、特定の国家の影響や介入を受けることなく、誰もがアクセスできる世界共通の基盤として、デジタルサービスの創出、イノベーションの拡大、活発なコミュニケーション等を支えてきた。インターネットの分断を回避し、自由で開かれたインターネットを維持・推進するためには、国家主導ではなく、マルチステークホルダーの枠組みによるインターネットの管理・運営を堅持していくことが重要といえる。

このため、2022年4月、米国は、日本、オーストラリア、欧州各国を含む60カ国・地域と、「未来のインターネットに関する宣言8」を発出した。同宣言では、「開かれたインターネットへのアクセスが、一部の権威主義的な政府によって制限されており、オンラインプラットフォームやデジタルツールが表現の自由を抑圧し、その他の人権や基本的自由を否定するためにますます使用されるようになっている」との懸念が表明され、開かれた、自由な、相互運用可能で、信頼でき安全な未来のインターネットへの支持を呼びかけている。また、未来のインターネットに関し、インターネットとデジタル技術に関して、①人権、基本的自由の保護、②グローバル(分断のない)インターネット、③包摂的かつ利用可能なインターネットアクセス、④デジタルエコシステムに対する信頼、⑤マルチステークホルダーによるインターネットガバナンスに関する原則を示した。

また、2023年4月に開催されたG7群馬高崎デジタル・技術大臣会合においても、オープンで自由なインターネットへのアクセスを確保するため、マルチステークホルダーの枠組みによるインターネットガバナンスの維持・発展の重要性が改めて確認されるとともに、インターネット上でのデータの流通を不当に制限するような政府による過剰な介入に反対する旨、信頼性のある自由なデータ流通(DFFT:Data Free Flow with Trust)の確保に向けて引き続き取り組む旨が表明された。

2023年10月には、我が国で、インターネットガバナンスフォーラム(IGF)の年次総会が開催される予定である。政府、民間部門、技術・学術コミュニティ等のマルチステークホルダーの議論により、自由で開かれたインターネットを支える有意義な成果が得られることが期待されている。



1 米国国防総省高等研究計画局の資金提供による大学・研究所間を結ぶネットワーク計画。1969年に世界初のパケット通信を実現。

2 https://japanigf.jp/about/igf別ウィンドウで開きます

3 プラットフォーマーへのデジタルデータの集中等については第2章第2節、アルゴリズムによるインターネット上のデータの選別・制限等については同章第3節を参照

4 https://www.accessnow.org/wp-content/uploads/2023/03/2022-KIO-Report-final.pdfPDF

5 政府および公的権力はインターネットガバナンスに介入すべきではなく、政府の規制の外でインターネットは発展していくべきであるという欧米各国や日本が支持する考え方と異なり、中国やロシアは、国が自国内でサイバー空間を積極的に制御することが国の権益として国際的に認められるべきであるとする「サイバー主権」という考え方をもつ。

6 2022年2月、中国とロシアは、「(両国は)インターネットガバナンスの国際化を支持し、各国がガバナンスについて同等の権利を有していることを確認し、インターネットの国内セグメントを規制することで国内の安全を確保する主権的権利を制限しようとするいかなる試みも容認できない」という立場を共有しつつ、「これらの問題に取り組む上でITUがより大きく参加することに関心がある」との声明を発表している。
https://www.digitalpolicyforum.jp/column/220902/別ウィンドウで開きます

7 スプリンターネットの潮流や性質自体が時代とともに大きく変化している中で、自国の情報環境を他国から守るという防衛的な「Splinternet 1.0」から、特定の国を排除するために当該国をグローバルなネットワークから戦略的・攻撃的に切断する「Splinternet 2.0」へと移り変わっているとの指摘がある。中央大学の実積寿也教授は、いわゆるSplinternet 1.0の段階においてはインターネットの断絶は国主体で行われてきているのに対し、Splinternet 2.0は国のみならず、民間企業によっても行われることが特徴であるとしている。

8 仮訳:https://www.soumu.go.jp/main_content/000812030.pdfPDF

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